知的障がい者でも嘘はつく

知的障がい者というと「嘘のつけない」「純真な」というイメージがあると思う。
確かにそういう人もいるだろうが、障がいのタイプやレベルによって、さまざまなわけで、中には嘘をついたり、自分にとって都合の悪いことはごまかそうとする人だっている。
しかし、嘘をつくというのは難しい芸当であると思う。
小さな嘘をひとつつくと、それに関連したいろんなことのつじつまあわせをしないといけない。なので、最初は小さな嘘であっても、あちらこちらに歪を生じ、嘘をついた当人には手に負えない事態となって破綻してしまう。
ということで、知的障がい者が上手に嘘をつくということは不可能に近いことだと思う。


パン屋で働くメイトの中に、週末になると開放感から遊びまわっている人がいる。まぁ別にもう大人なんだし、自分の責任と甲斐性でもって休日に遊ぶのはかまわない。しかし、ローテーションで出勤しなければいけない土曜日にも、友だちとの約束をいれてしまう。
一番最初に「明日は友だちと約束があるので休みます」と言われた時はビックリしてしまった。
「休んでもいいですか?」とか「休ませてください」とかでなく、いきなり「休みます」と宣言されたのだから
しかも、前日の帰り際に
なんかもぉ「働く」ことに対する意識の低さに愕然としてしまった。
しかし、気を取り直しコンコンと諭すように


「友だちと遊ぶ約束をする時は、その日が仕事かどうかまず確認しましょう」
「もし、仕事の日だったら遊びよりも仕事が優先です」
「仕事の日でも、どうしても友だちとの遊びを優先させたいのなら、事前に申し出ましょう」
「休んでもいいという許可がない先に友だちと約束してはいけません」


と、いうようなことを言い聞かせ、反省ノートにも書いてもらった。
その時は初回ということもあり、説教はしたけども休むことを許可。
別のメイトが替わりに出勤ということに
しかし、こういうことがその時だけでなく3ヶ月に1回くらいは起きるのだ。
その度に反省ノートを広げさせ「ダメです!」と諭す。
そしてその度に「はい、わかりました」と言うけれど、実はわかってはいない。
虚しい、チョォ虚しいのであった。
仕事の覚えが悪かったり、手がおそかったり、そういうことは最初から織り込みずみだから、こちらとしては理解しているつもりである。
でも、こういう風に社会性が乏しいことに関しては、心情的になかなか許しがたいものがあるのであった。人間できてないからね。
そういう社会性が乏しいことも障がいの一部である、かもしれない、けれど
永年健常者だけで健常者のルールで働いてきた私にすれば
「そんなの、ありえん!」と、思ってしまう。
生産性で劣るのであればなおのこと、せめてそういう社会のルールは守ってほしい!
と、ムリなことを思ってしまうのであった。


そんなこんなで、昨日のこと
またまた帰り際に
「明日は、家族の人と海へ行くので、休みます」


なんですと!?今、なんて?
今までは「友だち」だったのが、今回は「家族」
いったいウチの人の了見はどうなのだ!と、頭に血が上っていくのが自分でもわかる。なので、かえってさも冷静そうに冷たい口調で


「明日は、いったい誰が出る日なの?」と
「その計画はいつたてたの?ずっと前から決まってたの?」と
「明日、仕事だということを忘れていたの?
 おウチの人は『仕事なのか?』と聞かれなかった?」と


ついつい詰問調で次々と問いただしてしまった。
本人は「なんかヤバイ」と思っているようで、なんとかその場をごまかして切る抜けようと思った様子。
「仕事だと思っていた」と言ってみたり「わからなかった」と言ってみたり
あげくのはてに
「お父さんが『仕事だったら休めばいい』と言った」と言い出し
なんちゅうお父さんだ!父親がそうだから子どももコウなんだ!がぉ〜


と、問答を繰り返すこと30分
つじつまの合わない話を整理すべく、紙の上にお父さんとそのメイトの会話を書き綴り、やっとのことで本当のことがわかった。
結果から言えば、お父さんは勝手に休みだと思い込んで「海へ行こう」と誘った。
本人は仕事だとわかっていたけど、遊びたいから「ハイ行きましょう」と答えた。
「仕事」だと言えば、親は「仕事に行け」と言うのはわかっているので、そこのところはなんとかごまかそうとした。
そして職場では「休みます」と言ってすまそうとしたけど、そうは簡単にいかなかった。
紙の上には「お父さんの言ったこと」が書かれては、つじつまがあわなくなって「そうではありません、こうでした」ということで2重線で消される、ということが何度も繰り返されている。
本人は言いたくないことや都合の悪いことになると、なんとかごまかそうとして挙動不審になりながらしどろもどろとやっとのことであいまいなことを言う。
今まで再三再四注意してきたことをもう一度繰り返し、帰したのだがなんだかスッキリしない気分。


そのスッキリしない気分が晴れないウチにお母さんから電話
「なんだかキツイことを言われて、胸がドキドキすると言ってるので、これから病院へ連れて行きます」と


へっ!?それって、私が悪いの?
確かにキツイことは言ったけど、キツイことを言うのはそれなりの理由というか原因があるんですよ。
それにキツイことを言うってことは、言ってる本人(ワタシねワタシ)にとってもキツイことなんですよ。
と、申し開きをしたかったけど、そこまでは言えず
「あの、○○さん、とんでもないデタラメを言われたんですけど」
だって「お父さんが仕事は休んで海へ行こう」と言ったなんて、デタラメではないか。それもワタシが問いただしたからデタラメだとわかったのであって、もう少しでお父さんがデタラメな人になるとこだったんだ。
ワタシの語調がキツカッタのと、自分の子どもの普段のことを振り返ってみるとなんか思い当たる節があったのか
「すみません。ご迷惑おかけしまして。明日は仕事にやらせます」
と謝られてさっさと電話を切られてしまった。
詳しい話も聞かないで一方的に謝られてもなぁ


虚しい。いろんなことがチョォ虚しい。
ワタシが追い詰めてしまったということもあるのかもしれない。
でも、最初からごまかそうとしたり嘘をついたりしなければ、胸がドキドキすることもないのに。
ミョウチクリンな話しをするから問い詰めるんだよ。
それからね、働いていると守らなければいけないルールっていうものがある。
自分の欲求や都合でなく、まず社会のルールに従わなければいけないの。
とか、なんとかいうことを理解するのは難しいことなんだろうね、きっと。


あ"〜虚しい。店長はチョォ虚しいのであった。
せめて嘘はつかないでおこうよね。


◇◇追記◇◇
結局、土曜日に出勤してきたそのメイトに
「昨日、お医者さんに行ったの?」と聞いたところ
「ハイ、今 精神安定剤を飲んでます」とのこと。


ワタシはこの人の精神を不安定にしてしまった悪者なんだ。
と、自虐的に思う一方
でも、精神が不安定になるほど『嘘』をつくということは大変なことなんだ。
どうしてそれがわからないんだろう、自分で自分を追い詰めたんじゃないか…とも思う。
そしてこれから先も、きっとこういうことは繰り返されるんだろうなぁと
漠然とあきらめを感じる。
あ"〜 やっぱり虚しい。