[NPOとか]適当ということは難しい…その2

焼きあがったディニッシュやパイに粉砂糖を振りかけるという作業がある。粉砂糖を茶漉しに入れて、細かく降り積もる粉雪のようにさらさらとふるい落としていく。このふるい落としていく時の力加減がまた微妙で、口ではなんとも説明ができない。まずは、やってみせ、そしてさせてみる。その人その人によってうまくいかない理由は様々なのだけど、実際の様子をみていると「あっ!」っという風にピンとくることがあるので、「そうじゃなくて、こうしてみて」とその場で矯正する。何度かやってるうちにコツをつかんで、誰でもできるようになる作業だ。
で、他の3人よりあとから雇用を開始したMくんにもやってもらう時がきた。
まず、やってみせ、仕上がり具合を見せてみる。
「これぐらいにしてね。足りなかったらまたかける。でも、かけ過ぎたらもうやり直せないの。そっとね、少しずつ」
「はいっ!わかりました」


彼の返事はいつもピンポン玉のようにすぐさまポンポンと帰ってくる。
すでに彼は何回かやったことがあるのを知っていた私は
「これに粉砂糖かけるの、できる?」
「はいっ!できます!」
この受け答えを信じて「じゃ、やって」と言い渡してほんのちょっと他のことをした。



で、どんなあんばいかなぁ〜と、仕上がり具合に目をやってビックリ!
驚きのあまり声もでず、バンバンバンとテーブルをたたき
「ストップ、ストップ、やめてやめて!」
とやっとのことで叫んだ。
しかし、彼はやりだしたことをすぐに止めることはできない。
「やめて、やめて、やめてってば!」
彼の腕をつかんでゆさぶって、やっとのことで手を止めさせることができた。
私の騒ぎぶりに他のみんなはビックリ。
本人は何のことやらわからない様子
彼は粉砂糖を振るい落とす手を途中でとめることができず、デニッシュがみえなくなってしまうほどこんもりと砂糖の山を作っていたのだ。
「ね、これじゃダメ。これだと多すぎる。こんなに砂糖をかけてはダメ」
でも、どうも合点がいかないようなので、他のトレイにのっかている別のディニッシュを見せて
「ほら、これぐらいがいいの。これと、これと違うでしょ?わからなぁい?」
現物を見せてもダメ
私もかなり気が動転して、たたみこむようにまくしたてていた。
どうして?どうして、わからないのぉ?


すこし離れたところから一部始終をみていたM本さんが
「Mさん、その茶漉しの中に入れた砂糖、全部使いきらなくてもいいんですよ」
と、静かな調子で話しかけてきた。
ん?そういうこと!?そういうことね、やり始めたことを最後までしなければ気がすまない性分の彼は、いったんすくった砂糖を全部振るい落とさずにはいられなかったっていうこと!?
じゃぁ、最初っからすくう砂糖が問題ってこと?
なんとなく原因はわかったので
「そういうことかぁ〜」と納得してしゅぅ〜と私は落ち着いた。
でも本人はなんで怒られたのかわからないし、次回からはどうしていいのかもわからない。
しかし、時間は流れていくのでそのことばかりにかかずらっているわけにもいかず、なんの解決もなく作業は別のことへと移り変わっていく。


後で自分でもやってみた。
いつもは無意識にぱぱっとやってしまうけど、彼にどう教えてあげればいいんだろうとひとつひとつの動作をゆっくりと確かめてみた。
そして気付いたことがある。
自分は砂糖をふるいかけながら、目線は砂糖のおちていく先、ディニッシュの仕上がり具合を確かめて手作業のあんばいをコントロールしている。
たぶん、ほとんどの人がこの作業をする時にはそうしているんだろう。
しかし、Mくんは仕上がり具合に目はいかず茶漉しの中をみているんだ。
だから私が「こんなにたくさんかけてはダメ、これくらいにして」と言っても作業をしながらその判断がつかないのだ。
「ふぅ〜ん。そうなんだぁ〜」
M本さんの発言がなければ私はこういうことには気付かなかったに違いない。
彼の行動分析ができ、なんとなく満足した自分であったが、いまだに適当な指導をできないままになっている。
それはここが作業実習の場ではなく、パン屋だからだ。
何よりもパンを焼いて売る、ということが優先される。
その手を止めてまでも彼に十分な指導をする余裕がないのが、私たちの日常なのである。
それも、なんだかなぁ〜