養護学校の進路研修会

養護学校を卒業して「がんばっている先輩」の体験談を聞こう!という主旨の研修会に出席してきた。「がんばっている先輩」とその保護者、事業所・施設職員という3人セットが5件講師という形で招かれている。私はパン屋で「がんばっている先輩」N君の雇用側として出席。参加者は、そろそろ卒業後のことが心配になってきている高等部の保護者が多く、あとそれに続く中等部。保護者だけでなく高等部3年の生徒も多かった。
最初、ふた教室分の広さの会議室に全員集まり簡単に事例紹介。事前に取材をされた先生の卒業生へのインタビューを織り込み1件15分程度。
N君は卒業時にすぐ就職はできずいったん作業所へ通っていたけれど、翌春にはパン屋さんへの就職をはたし、車の免許も取得、休みには自分の給料で一人でディズニーランドのツアーに参加するなど、在校生と保護者からは羨望のマナザシを集めている。


先生のインタビューの内容は事前に本人に文書で告知してあったようで、人前でしゃべるのが苦手なN君は書いてきた答えを棒読みするという塩梅。言葉が足らない部分は先生がお母さんや私に話しをふったりして紹介は続く。
ウチのNPOを立ち上げたのはこの養護学校の保護者が中心であったので、参加者の興味はなおいっそう深い。
私としてはパン屋開店半年を経て、障がい者とともに働くことの難しさ、ことにそういう職場において健全な収支を維持していくことの難しさを痛感している昨今。参加者が期待と希望いっぱいの面持ちでN君の紹介を「いいね、いいね、そんなのいいね」といった雰囲気で受け入れているので少なからず居心地の悪さを感じた。
さらに感じた違和感は「楽しいことや辛いことはなんですか」という先生の質問に対して「お給料で旅行にいったりするのが楽しい。新しい仕事を覚えるのが楽しい。辛いことはない。」と答えたとき。
なるほど、それらは楽しいことに違いない。しかし本当に辛いことはないのか?N君の職場での実際は、せかされどおしの毎日である。数量は間違いなくカウントできるし、指示した仕事の理解も的確である。しかし、こだわりの強い彼は仕事がとっても遅いのだ。たぶんこれが作業所であれば「彼なり」のテンポは受容されることなのだろう。しかし、そうはパン屋が許さない。我々スタッフとしても無理強いはいけないと思い、多少のがまんはしているがそれにも限度がある。パン生地もお客さんもN君の仕事のあがりを忍耐強く待ってはくれないのだ。そしてさらに挨拶やら受け答えやら、なんだかんだとチェック、指導が入る。私たちスタッフは就労している成人のメイトに対し、それなりの社会性も身につけてほしいと願っているので何度も何度も挨拶や返事のしなおしをさせられている。それって、辛いことではないのか?


障がいのあるなしに関わらず、同じように働くのであれば、同じように辛い思いも多少感じてほしい。私たちスタッフが毎日毎日、同じようなことを繰り返し注意するというのもこれはこれで辛く感じることがある。なのに、注意されている本人はちっとも辛くはないの?辛いと思わないところに変化や前進はないんだよ。辛いこともあるけれど、一生懸命働けばこんないいことがあるんだよ、という話を在校生にしてあげてほしかった。N君の紹介は現実を少しオブラートに包んだ夢物語のような感じがして、ますます居心地が悪い私であった。