パン実習の経過も報告しなくては…

パン実習は粘土の彼女と差がつく一方である。
彼女は朝一番にきて、もくもくと食パン種のまとめ作業をしている。
工房から50メートルほどのところに彼女の自宅がある。ハローワークの求人情報を見て応募してきたのだけど、面接のときビックリ!なんと娘の同級生のお母さんだった。
向こうの方は連絡先の私の名前をみて来たので「あっ、やっぱりあっぷあっぷさんですね!?」同席していた理事1は「この人(事務局長)のことを知ったうえで応募されたんなら安心です。」と、ワケのわからんことを言っていた。


工房の近くに住んでいる人で、雪が降ろうと何があろうと、キチンと毎朝オーブンの点火をしてくれる人が第一希望だったのでソク採用。そしたらなんと、かくれた逸材だったわけです。スタッフ3人で大きな作業代を囲み食パン種を丸めてみる。トレーナーが彼女にだけ「こういう風にしてごらん、親指をこうして…」と、新たなワザを教えている。向い側で見ている私がそれを真似ると「アンタはいいの、そのままやってて!」とピシャンと言われてしまった。さ、さみしいっすね…


食パンは1.5斤のサイズの型を一度に15個オーブンにいれる。どんどん醗酵していくので、時間との勝負。3人がかりでせっせと玉をこねて型に入れる。彼女は魔法のようにくるくると玉をころがしてツルンときれいな球体を型におさめている。私はモタモタやってるわりには仕上がりが今イチ。しかし、時間におされて「まっ、いっかこんなもんで…」と型に突っ込んで最後の醗酵。その後、型にふたをして釜入れ。焼成に30分以上かかるので入れてしまうとホッとする。やれやれ〜もうお昼を過ぎてるよ。朝から立ちっぱなし。やっとコーヒーを入れてすでに焼きあがってるパンの試食。デニッシュやあんパン。ウインナーやポテト、ツナなどをはさんで焼いたお惣菜パン。あれこれつまんで意見交換していると釜出しの時間となる。


さぁ〜ここからがまた一騒ぎですよ。しっかりと軍手を2枚重ねして扉の前にたつ。作業台の横にももう一人、向い側にももう一人待機。この二人もしっかり軍手。時間が来てブザーがなる。扉を開ける。熱風が吹き出してくる。火傷しないように注意して一番手前の食パン型を引き寄せそっとふたを押し開けてみる。パンのてっぺんが美味しそうな色に焼きあがっているのを確認し、パン型をオーブンからだし、すぐさま作業台に底をガツンとぶつけてショックを与える。蓋をすっとあけ型を横倒しにして中のパンをまっすぐに作業台の上にすべり出させる。待機していたもう一人は飛び出してきたパンをつぶさないようにクールダウンさせる棚に順々に並べていく。最後の一人は空になったパン型と蓋を邪魔にならないように作業台の片隅にどんどんよけていく。
この3人の息をぴったりあわせて、休むことなくパンをオーブンから出していく。ガツン、ガツンという大きな音が工房内に響き渡る。オーブンの中には横に5個、縦に3列のパン型がならんでいる。一番手前のパン型を出すのは比較的スムーズにできる。真ん中の5個は多少熱いのをガマンして手を伸ばせば届くところにある。問題は一番奥の5個。火掻き棒のようなもので奥からひきよせるけど、これがなかなか。オーブンもパン型も新しくピカピカなのでパン型はその場でくるくるとまわるだけ。なかなか手前の方へやってこない。モタモタしていると奥のパンはどんどん焼きすぎになっていく。最初にいれたパン型が結局最後にでてくるのだから、面倒な話だ。すったもんだでやっと15個の食パンをすべてオーブンから出し、扉をしめる。ほっとする間もなく「油!」とトレーナーに声をかけられ空になった型の中にスプレーのオイルをうっすら吹き付ける。まだ熱いパン型を重ねて収納場所にしまっておしまい。


なんだか運動会の団体競技を終えたような気分になり、ちょっぴり達成感…などとしみじみしていると、トレーナーが焼きあがった食パンの外側を眺め回している。「う〜ん、生地が荒れているなぁ…」えっ!それ、荒れてるんすか?私がやったやつですかい?
あとの二人も怯えたような表情になる。トレーナーはますます険しい顔になり、焼きあがったばっかりの食パンをがばっとふたつにちぎり分け、断面に顔を突っ込んでくんくんと匂いをかいでいる。何、何、なんなのよぉ〜???
ふたつ、みっつと立て続けに同じように匂いをかいでなにやら不満げ。「これ、匂い嗅いでみて!」う〜む、くんくん、イーストの匂いだろうか、少しすっぱいような…

「これじゃ、ダメなの。もっと芳ばしいいい匂いがしなきゃだめなの。焼きが足らんね。明日はもう5分余計に焼こう」

よかった、私のコネ方のせいじゃないのね。
「しかしひどいね、この生地は。生地、荒しちゃダメよ…」うっ!やっぱ、私ですかい