ひとり去り、またひとり…

職場のOver Forty Island では、みな疲れた顔をしている。


それぞれに納期のある仕事を抱え、思うようにはかどらなくてイライラが募っている。
みんなが若くて元気だった20年ほど前をつい思い出してしまった。
私が東京本社の勤務から地元に戻り、地元では私のような新卒の女性を採るようになっていた。結婚退社などの出入りはあったが、最終的には4人の女性技術者が残った。当時はそういう意識はなかったけど、今にしてその働きぶりを思い返すと、「私たちって、なかなか優秀だったわ!」と認識している。(勘違いじゃなきゃいいけどね)
入社時は世間知らずではあったものの、若いだけに吸収力も多いにあった。私たちはみな貪欲で、わからないことはとことん追及して、教えあったり助け合ったりして成長していった。
ある時期になると、みな次々と結婚。歳が近いのだからしょうがない。産休、育休もみんなでカバーしあい、子どもの学習発表会、入学、卒業や保護者会(通知表もらいですね)になるとお互いの休みや仕事のスケジュールを調整しあったりして乗り切ってきた。でも、みんながみんな同じようにがんばれるとは限らない。私は正社員を退き、契約社員として働く道を選択した。その後、もう1人が私と同じ契約社員となった。あとの2人は同居のお姑さんの支えなどもあり、定年まで勤めあげるかに見えた。でも、そのうち1人はお姑さんの介護のために突然退職。結局、正社員として働いているのは残すところTさん1人だけ。


Tさんはキマジメでよく働く。担当する顧客のシステムのメンテナンス、トラブルの対応、改善提案。その合間を縫って新規案件の見積。全然別のシステム設計をしながら、後輩指導。メーカーの講習会にも出なければいけないし、そして今年は息子さんの大学受験もある。
私は、もっぱら後方での援護をするしかないのだけれど、お互いの信頼関係もあり、なんとか今までやってきた。でも、それもあとわずか。私が去った後のことは、なるべく考えないようにしているらしい。キマジメなだけに、まかせられた仕事をいい加減に処理できない彼女がいつかキレるのではないかと、心配だ。ユーザーとのやりとりや、後輩の指導ってけっこうストレスがたまる仕事だし。って、やめてく私が心配してもしょうがないことではあるけど…


しかし、こういう状況になってしまったのも会社が悪いと言えないこともない。
私たち優秀な女性(って、自分で言うか?)が若くて元気なうちは会社にとっても都合がよかった。どんどん仕事を与え、残業も出張もさせてみな男並(いわゆる)に働いた。(ちなみに、私はこの「男並」という言い方はキライ。)会社が得た利益も大きいだろう。若いころは、原価意識もなく売上のこともあまり気にせず、収益にいたっては見たことも聞いたこともなく(見せられてても関心がなかったのか?)とにかく納品物を作るだけだったから実際のところはわからない。しかし全社的に見ても私たちの生産性の高さは突出していたから、カセギも大きかっただろうと推測している。
しかし、その優秀な女性たちを何も考えずに、ただただ使い続けていたのだ。ぽつぽつと離脱者が現れる前に、雇う方も働く方も、お互いにとっての利のある何か方策があったのではないか?さらにOver Forty の次なる世代が育ってきていないという問題もある。今、Tさんが一生懸命指導しているのは20代の女性だ。なんでもできるTさんと、できることがまだ僅かなこの女性との間を埋める技術者が不足している。


Tさんは私の前の席で、険しい顔で仕事をしている。彼女の顔を見るのが辛い。私がここにいるのはあと6日。その間にできることは、何もないのであった。