メイトの離職

また1人メイトが離職した。
これでパン屋開店当初3人いたメイトが全て離職したことになる。
離職した理由は、3人それぞれにあるのだけれど。
そして離職した3人とは別の2人が現在メイトとして働いてはいるのだけれど。


知的障がい者の職場への定着が難しい…平たく言えば、就職してもなかなか長続きしない、という問題があるということはNPOを立ち上げる前から耳にしていたことであるが、現実問題として自分の職場でもその問題が起きている。
離職は就職して1年を経過した頃からぼつぼつと始まった。やっと仕事もおぼえたのに、と思った頃からだ。そして辞める時はいつも突然だ。事前に「辞めたいのだけど」という相談が本人の口から出るわけでもなく、それが無理だとしても「仕事に行くのがつらそうです」とかいう相談が家族の人からよせられるわけでもない。
また、こちら側が「辞めてもらいたい」「これ以上は働き続けるのは無理」と思っているわけでもない。「辞める」というアピールが出た時点では本人がストレスを抱えているというのはすでに誰の目からもあきらかな状態であることが多いので「しばらく休んで、元気になったらまた再開されたらどうですか」と提案してもすでに手遅れ。「辞める」という意思は親子ですでに固まっている。


どうしてこういうことになるのだろう。自分たちスタッフは障がい者の就労支援に関しては何の知識も経験もない。ただお互いの人間性を尊重するということだけが指針とも言える。自分たちの指導の仕方がきつかったのだろうか。能力以上のことを求めていたのだろうか。
しかし、食品を製造販売している職場として、そこで働く人たちに守ってもらわなければいけない約束事というのは厳然としてあるし、その日の生産すべき計画高もある。職場である以上、障がい者であっても譲れないものはあるのだ。
そこの部分を根気強く指導していたつもりでも、当の障がい者にはキツイことだったのだろうか…


実際、ヨソの障がい者雇用をしている事業所ではどうなんだろう…
で、いろいろNET上を探してみると、私の疑問にピッタリ当てはまるものがあった。


JC-NETの実行委員であり社会福祉法人電機神奈川福祉センター・常務理事の志賀利一さんが書かれた原稿のようです。

http://www009.upp.so-net.ne.jp/machito/empu/tomoshibi.html

知的障害者の就労支援(連載原稿)
日本てんかん協会東京都支部の会報誌「ともしび」に
2002年4月より1年間、表題のタイトルで原稿を書きました。
非常にシンプルなテーマをあげたつもりです。

あまりにピッタリなので、まんま転載します。(いいのかな〜?)

1月号:離職支援の仕事
仕事をみつけたいと考えている障害者に、企業等で働けるよう支援することが、就労支援の仕事としてもっとも注目されがちです。しかし、実際は、現在働いている人がその会社を辞める、つまり離職時の支援も大切なのです。私たちの職場でも、毎年50人以上の知的障害者が新規に就労していますが、継続支援をしている人のうち何人かは離職しています(毎年10人を越える)。

もちろん、離職の中には企業の倒産あるいは事業所閉鎖による、いわゆる会社都合の離職もあります。しかし、圧倒的に多いのが、本人都合の離職です。

離職時の支援を行う中で、知的障害者に比較的共通するパターンがあることがわかります。ひとつは、会社を辞める2週間以上前に、退職願等を会社に提出し、その時期まで勤務を続けることが困難です。多くの知的障害者は、会社に通えなくなってから、離職の問題を本人ならびに周囲が考えるようになります。

もうひとつは、いったん休職あるいは身分を保証して欠勤を続ける処置を会社がとっても、再度その職場に復帰し、仕事を続けることが比較的難しいことです。

このような課題を解決するために、私たちは雇用ルールの理解や会社への帰属意識、さらには経済的自立の意識に対して、より効果的な支援プログラムを作らなくてはならないのかもしれません。逆に、現行の雇用・退職のルールは知的障害者にとっては、わかりづらい、明文化できない慣行がたくさん存在するのも事実です。

もうひとつ典型的な離職時のパターンがあります。離職した知的障害者にその理由を聞くと、「同僚の○○さんに冷たくされた」「上司の△△さんが怖かった」といった回答がかなり多いのです。従来は、「数ヶ月で仕事にも慣れ、かなり戦力になっていると言われていたから、会社の中の対人面での問題から離職に至った」と結論付けてしまいがちでした。

ところが、就労してからも継続的に会社を訪問し、様々な情報収集を行っていると、労働力としては申し分ないが対人面だけの問題で離職する人は、本当に少ないことがわかります。仕事の変化や多様性になかなかついていけない、一人のパート職員にあまりにも依存的になっている、職場に慣れると同時に自分勝手な判断で仕事をするなど、職に就いた当初とは異なった課題に常に直面し、それを乗り越えられないでいる場合が多いのです。そして、このような職務上の課題を知的障害者本人が適切に把握できないため、直接的なきっかけである「注意された」「叱られた」などの対人面での行動を原因にあげてしまうのかもしれません。

離職し、再就職することは決してネガティブなことではありません。しかし、再就職が決して容易ではない現実は存在します。本人の意思や能力ではなく、雇用管理や継続的支援の方法で離職が予防できるのであれば、それに越したことがありません。就労支援の担当者は、これまで出会った離職支援の事例をしっかりと分析する必要があります。

と、ここまでがその原稿なんですが
うぅむ。あまりにもピッタリだ。
この
「同僚の○○さんに冷たくされた」「上司の△△さんが怖かった」
というのは、たぶん家に帰って家族にこのように訴えているだろうことは親御さんの口ぶりでわかる。
それに、自分たちでは冷たくしたり、脅したりはしていないつもりでも、強い口調で注意したことがこういう風に受け止められたんだろうなぁという自覚もある。
そしてそうなっていったことの原因もここにあるとおり。


「職務上の課題を知的障害者本人が適切に把握できないため」とあるが、こうなってくるとスタッフの方もどうすれば障がい者に理解してもらえるのかとあせり、次々とアプローチの方法を変えたり、しかし成果はあがらず障がい者にはストレスがたまり…といった負のスパイラルにどんどん落ち込んでいってしまう。
「乗り越えられない」でいるのは障がい者であるが、「乗り越えさせる」ということを乗り越えられないでいるスタッフにとってもこれはかなりキツイ状況である。